ワケあり!
「織田の血桜」

 家に帰りついた絹を待っていたのは、島村の一言だった。

 言い残すなり、ボスの荷物を預かって、さっさと奥へ行ってしまう。

「ちょ…」

 やっぱり、島村は調べたのだ。

 桜の実家について。

「織田の血桜とは、マニアックなものを引っ張ってきたな…ははは」

 しかし、もっと驚いたのは、ボスがそれを軽やかに笑ったからだ。

「って…ん? 織田って…チョウが言ったのは、もしかしてそのことか!?」

 自分の言葉で、自分で驚き始める。

 遅いです、ボス。

 絹は、うーんとうなった。

「しかし、なんでチョウはお前に、織田の名前なんか聞くんだ?」

 心底不思議そうだ。

 絹だって知りたい。

 大体、織田ってどちらさま?

「織田は、血族の名前とも、集合体の名前とも言われているが…関西を本拠地とする悪者の集団だ」

 戻ってきた島村は、稚拙な表現をした。

 悪者、だなんて。

「お前がいたところも、織田絡みだぞ」

 追加情報に、絹は時を止めた。

「織田は、非合法の塊だからな…この国を牛耳ってる最大の悪であることは確かだ…ははは」

 ボスは、どこまでも軽やかだった。

「ああ、島村…織田は、血族でも集団の名前でもなく、個人名だ。当主のみ、そう呼ばれるんだ」

 マッドサイエンティストたるもの、正しい知識を持たねば。

 真面目に、ボスは訂正を入れてくる。

 面食らっているのは、島村だ。

「えらく、詳しいですね…」

 彼のつっこみに、ボスは黙り込み――天井を見た。

「さて…録画でも見るか」

 いきなり、話が急旋回した。

 ごまかそうとしてる!?

 それはもう、あからさまだった。

 チョウの、あの華麗な会話の切り替えを、少しは見習えと言うくらい。

 呆気にとられる二人を置いて、ボスはさっさと自室へ行ってしまったのだった。
< 105 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop