ワケあり!
「森村に会ったんだな?」

 帰りついた絹は、ボスの一言目に、にっこり微笑んだ。

「ただいま帰りました…素敵な弟さんでしたよ」

 森村の話を正確にするのは、難しい気がした。

 ある意味、ボスに似ている。

 森村は、個人を抹殺しようと考えているが、ボスは世界を滅ぼそうと考えたのだ。

 スケールが、違うだけな気がしてきた。

「ボスの言葉通り、渡部を黙らせる材料にならないか、動いてみたんですよ…広井兄弟じゃないので、ボスも見たくないかと思って」

 正論を並べた。

 学校のことは、絹が何とかしなければならない。

 その一つなのだと。

 しかし、森村が無理とすると、渡部の攻撃は飽きるまで放置するしかないのか。

 それと、桜の死の真相。

 あてになりそうなのが、その渡部しかいないのも考えものだ。

「弱味を握るのが、てっとり早いぞ」

 怪しげな装置をガチャガチャひねりながら、島村が言う。

「あいつに弱味…」

 現実性を感じなかった。

 あるとしたら、森村か。

 たかが玩具のことで、絹に釘を刺しにきたのは、どういうワケか。

 彼と絹がつるむと、困ることでも。

「ボス、森村さんに一度会ったことがあるんですよね…何か、気になることとか、ありませんでした?」

 絹が気づいたのは、渡部を憎んでいることくらい。

「早く帰りたかった記憶しかない」

 ボスのツーンとした返事に、絹はお手上げのポーズをする。

「ああ、でも」

 何かを思い出したような声。

「本家の連中が、変にざわついていたな…何故かまでは興味がなかったが」

 漠然とした、雲を掴む話に――やっぱり絹は、お手上げだった。
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