ワケあり!
 桜だけでも手一杯なのに、森村の謎まで上乗せされる。

 共通のするのは、「青柳」という名字くらい。

 桜について言えば、関係している――かもしれない、ということだが。

 知っているだろう人間は、ボス、渡部、森村。

 どれも、一筋縄ではいかない人間だ。

 ボスの機嫌のいい時に、聞くかぁ。

 絹は、とりあえず味方を選択した。

 そのボスを機嫌よくするためには、もう少し広井兄弟でサービスをしないといけない。

「こんにちは、高坂さん」

 にこっ。

 しかし。

 宮野は、相変わらず絡んでくる。

 天文部の部室で、後からやってきた彼女が、まっすぐに絹の方へと駆けてくるのだ。

 絹の隣には、将。

 勿論、彼へも挨拶。

 宮野にしてみれば、好きな二人が一緒にいるということは、一石二鳥でおいしいことだろう。

 しかし、男女の関係やボスの気持ちは、そんな単純なものでは片付かないのだ。

「そういえば、高坂さん。渡部様とお話してらっしゃいませんでした?」

 悪気のない世間話だ。

 しかし、聞きたくない名前。

「数回…必要だったからよ」

 その内二回は、将も一緒だった。

「そう…なんですか。気を付けて下さいね…渡部様、人気がありますから」

 気を付けたいのは、渡部自身に、だ。

 宮野が言ってるのは、きっと取り巻きだろうが。

「宮野さんも、彼のことは様づけなのね。ファンなの?」

 せっかくアドバイスしてくれたので、絹は恩を仇で返すことにした。

 将も、彼のことはよく思っていないはずだ。

 その相手を様で呼んでいるのだと、彼にアピールする。

「あ、いえ、友達のがうつっちゃって…高坂さん綺麗だし…渡部様とお似合いかなって」

 あせったどさくさにまぎれて、何を言っているのか、この天然娘は。

 あの男だけは、勘弁して。

 絹がこめかみを押さえる横で、将が不機嫌になってゆく。

 どうやら宮野の言葉は、ご不興を買ったようだ。
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