ワケあり!
「あんた、それないやろ!」

 昼食と楽しいおしゃべりを終え、高等部の校舎に戻ってきた絹は――ゴージャス天野に呼び止められた。

 どうやら、途中で彼女が抜け出したのに気づいたようだ。

「私がいる必要、なさそうだったので」

 渡部の敵という意味では、あの五人にとっては、絹も天野も大差ないのかもしれない。

 けしかけた渡部には、そこが多少の誤算だったろう。

「あいつら、シツコイんや…もー。最初にガツンと言っとかんと、またどうせ来るで」

 あーあ、と。

 ゴージャス天野は、両手を腰に当てて天を仰ぐ。

「でも…随分、渡部さんにお詳しいんですね」

 そこは、特筆すべきところかもしれない。

 彼が関西弁を使う姿など、想像もつかないのに。

「幼稚舎から一緒や…中学なってこっちきて、やっとオサラバできる思たら…また一緒やろ。頭イタイわぁ」

 お。

 思わぬところから、拾い物が出てくるものだ。

 本人は嫌そうだが、この腐れ縁の知識は、役に立つものがあるかもしれない。

 しかも、珍しく「いい人」属性のようだ。

 ここしばらく、情報については氷河期だった絹には、真夏の日差しに見えた。

 しかし、どこから聞き始めていいのか。

 彼女も『織田』絡みなのか。

 まず、そこか。

「関西ってことは……あなたも『織田』ですか?」

 声をひそめて呟くように言う。

 マイクは拾っているだろうが、しょうがない。

「あかんて…あれは、関西の黒歴史や。そんな簡単に口に出したらあかん」

 シーッ。

 ゴージャス天野は、慌てて周囲をうかがうように、唇に人差し指を当てた。

「うちのおとんの会社は、健全な建設会社やで。あんな真っ黒なヤクザ集団と一緒にせんといて」

 どうやら。

 彼女は、違うようだ。

 建設会社。

 渡部の家も大手ゼネコンのはずだ。

 渡部組。

「天野…建設」

 もうひとつ、絹の頭によぎった会社名。

「そうや。うちは、関西の建設業界の女帝になる女や」

 ふわははははは。

 勝ち誇るように、ゴージャス天野は高らかに笑うのだった。
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