ワケあり!
「ほい」

 しばらくして、島村が印刷した用紙をくれた。

 ボスは、まだすねているのか、自室から出てこない。

「あぁ、ありがと」

 長ソファの肘掛に、両足を長く伸ばしながら、絹は片手におにぎり、もう片手にファイル、という二刀流になった。

「あ、そういや」

 ファイルも興味あるが、絹は助手にも聞いてみたいことがあったのだ。

「島村さんは、マッドサイエンティストの助手なんでしょ。こんな茶番に、よく付き合うね」

 絹はいいのだ。

 彼女はそのために買われたのだから。

 しかし、彼は違う。

 具体的には知らないが、島村にも目指すものがあるはずだ。

 だから、ボスの助手になったに違いないのに。

「お前が学校に行っている間、先生はモニターを見ながら、人工衛星を撃ち落とす装置を作っている」

 淡々と島村は、物騒なことを言った。

「じんこ…」

 宇宙に浮かぶあんなものを、撃ち落としてどうしようというのか。

 おそらく、まともな理由と目的ではないだろう。

 絹は、深く追求しないことにした。

 それより。

「先生は、遊んでいるだけじゃない」

 淡々としながらも、きっぱりとした島村の声。

 こっちの方が、重要だった。

 彼もまた、絹とは違う意味で、ボスに畏敬の念があるのだ。

 もぐっと、おにぎりの最後のひとかけらを飲み込む。
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