ワケあり!
「血の近さ、遠さ、容姿、健康状態、頭脳、体力。それらを計算して、理想の子供を作るのが、青柳の仕事だ」

 やっと絹はソファに座り、ボスの話を聞いていた。

 原始的な、遺伝子操作か。

 なんとなく、絹にも理解できてきた。

「重要な一族の、婚姻相手を探したり作ったりすることが多いが、な」

 絹の頭に、渡部がよぎった。

 あの容姿、運動能力が、意図して作られたものだとしたら――納得できそうだ。

「森村に、何の価値を見いだしたかは知らないが、ブリーディングの材料にされているのだろう」

 詳しく想像したくなくて、絹は顔をしかめた。

 彼は、毎年京都で、理想の子供を作らされているというのだ。

「なんで、言うことを聞いてるんだろう」

 京都まで行かなければ、そんな地獄も避けられるはずなのに。

 あの彼が、そんなに素直に言うことを聞くとも思えないのだが。

「相手は…悪人だぞ」

 いつの間にか、島村が部屋の隅にいた。

 なぜ、そんな隅に。

 絹はつっこみたかったが、今は素直に言葉を聞く。

「言うことを聞かないなら、弱みでもなんでも握って…言うこと聞かせるだけだろう」

 マッドサイエンティストも、悪寄りの人間だ。

 悪の考えることなど、簡単に分かるに違いない。

 そりゃあ。

 そりゃあ、殺意も覚えるわな。

 ぞっとしながら、絹はその事実を噛み締めた。

「デキのいい子供は、あちこちの分家に養子に出される。森村も、もう何人かの子供の親だろう」

 ボスは、青柳は好きではないらしい。

 彼の科学者の美学と反するところでもあるのだろう。

 モラルだけで、毛嫌いするはずはない。

 ボスそのものが、モラルを既に欠落しているのだから。

「デ、デキの悪い子供は?」

 絹は気になって、おそるおそる聞いてみた。

「聞かない方が、いいと思うぞ」

 島村が、先に口をはさんでくる。

 ボスも、絹の方を見ないようにしている。

 本当に――聞かない方がよさそうだ。
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