ワケあり!
「ついたー」

 車が止まるや、了が一番に飛び出していく。

 昼間だというのに、下界と違って明らかに気温が低い。

「いらっしゃいませ」

 高原の空気に肺の中身を入れ替えていたら、ペンションの中からお迎えが出てくる。

「お待ちしておりま…」

 年配の女性の声が、絹で止まった。

 もう慣れた慣れた。

 絹は、殊更笑顔で会釈する。

 どうせまた、桜を知っている人なのだ。

 ここに、チョウと桜が、星を見にでもきたのだろう。

「荷物これだけ?」

 振り返ると、将が絹のバッグを持っている。

「あ、自分で…」

 彼からバッグを取り返そうとするが、バッグはひょいひょいと逃げる。

「大丈夫、大丈夫、オレが運ぶから」

 さわやかに笑いながら、バッグを持って行かれた。

 ここの風景が、妙に似合う男だ。

 ぽかん。

 振り返ると、ペンションの女性が、そんな顔をしていだ。

 絹が見ていることに気付き、はっと我に返る。

「ち、朝くん…私いま、二十年前の幻を見たわよ」

 チョウに近付き、抑えきれない音量で訴えている。

「将が、一番オレに似てるからなぁ」

 チョウは、苦笑するしかないようだ。

 ああ、なるほど。

 さっきのやりとりか。

 はいはい、とやりすごそうと思ったら。

 ぐい。

 腕が取られた。

「んじゃ、行くか」

 犯人は京。

 にやっとした目が、自分を見ている。

「あー、僕もーっ」

 反対側を、了に取られる。

 二人のエスコートという豪華さで、ペンションに入れるようだ。

「二人して、何やってんだー」

 先を行っていた将が、振り返りながら抗議。

「お前は荷物持ち」

「将兄ぃは車の中で、ずっと隣だったんだから、いいじゃない」

 抗議は、一瞬で二人に踏み潰された。
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