ワケあり!
 ベッドの二つある部屋に、案内される。

 女は絹だけなので、ひろびろと使えるようだ。

「分からないことがあったら、聞いてくださいね」

 やっと、絹の顔に慣れたらしい。

 笑顔で出ていく女性を見送って、絹はベッドに腰掛けた。

 コンコンッ。

 すぐにノックがくる。

「はぁい?」

「えへへ…僕」

 ひょっこり顔を出したのは、了。

 早い訪問だ。

「僕、パパと同室なんだ…だから抜け出しやすいの」

 してやったり。

 二人の兄を出し抜いて、さっそく遊びにきたようだ。

 確かに、ちゃっかりしている。

「と、言うことは…京さんと将くんが同室なのね」

 京の方が力関係は上だろうから、将は苦労しそうだ。

 あー。

 そこで絹は、ボスを思い出した。

 結果、ボスは一人部屋か。

 今頃、その事実に一人、さめざめと泣いているに違いない。

 おそらくボスの頭では、同室が思い描かれていたろうから。

 罪な人だ、チョウさんも。

 くすっと、笑ってしまった。

「夕食まで、まだ結構あるし、一緒に散歩いこうよー。この辺案内するからー」

 絹の心など知らない了に、腕を取られる。

 あらあら。

 更に、おにいちゃんズを出し抜こうというのか。

 絹は、手を引っ張られて立ち上がった。

「誰かに言っていかないと心配されるわ」

 後で、京か将がこの部屋に来そうな予感があるのだ。

「大丈夫ーパパに言ってきたからー」

 にこにこー。

 さすが、ちゃっかりもの。

 抜かりはなかった。
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