ワケあり!
「ただいまーおなかすいたー」

 ペンションなのに、まるで自分の家に帰ってきたかのような軽さで、了はドアを開けた。

 絹も、その後ろから続く。

「おかえり、了」

「ひっ!」

 玄関先に待ち構えていたのは、おにいちゃんズ。

 京はにやついているが、将は引きつっている。

「さすが、広井家一番のおいしいとこどりっ子、たいしたもんだ」

 京は、了の背中をバシっと一発。

「いっ!」

 痛みでぴんと伸びた背筋。

 その、伸び上がろうとする頭を、将が上から手で抑えつける。

「了…お前、夜は毛布持ってオレらの部屋な」

 おにいちゃんズは、あっさりと末っ子の自由を奪ってしまった。

「そんなぁ」

 じたばた抵抗する了。

 割と、いつも将が二人にいじめられているイメージがあるが、今日は珍しく上二人がタッグを組んでいる。

「お前も…」

 まだ、将と了がもめているのを横目に、ぼそっと長男がつぶやく。

「お前も、恋愛慣れしてないうちのチビの誘いに、ほいほい乗りすぎんなよ…暴走したら、面倒なことになんだろうが」

 あらら。

 釘を刺されてしまった。

「将くんだったら…いいの?」

 絹は、余計なお世話という意味を匂わせて、皮肉を言ってみた。

 本性出してんじゃねぇよ――そんなニヤリを返される。

「あいつは、根が真面目だからな…変に気を遣って出遅れるのが得意技だぜ」

 なるほど。

 天然わがままの末っ子は、後先考えないというわけか。

 子供だと思っていても、まばたき一つで大人になることもあるのだ。

「覚えとくわ」

 わざと写真の中の桜と同じ笑みを浮かべて、絹は長男のDNAを鷲掴みしてやる。

 やっぱり余計なお世話の――仕返しだった。
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