ワケあり!
 夕食時。

 誕生会の、根回しがしてあったのだろう。

 手作りっぽいケーキが、テーブルの上に乗っていた。

 その雰囲気に、絹は食堂に入るや、気圧されてしまう。

 ものすごく、居心地が悪い。

 主賓席に京と並んで座る。

 あぁ。

 他の人が、視界の中で席に着いていく中、逃げ出したい衝動にかられた。

 忘れていたわけではない。

 これが、自分の誕生会を兼ねていることを。

 しかし、本当に理解していたわけではなかった。

 それを思い知らされる。

 こんな、暖かく見守られるような視線に包まれるなんて。

 た、たすけて。

 絹は、席に着いたボスに助けを求めてしまった。

 しかし、彼は既にチョウに夢中だ。

 落ち着かなく、絹は一人ぼっちでいるしかなかった。

「おい…それが、祝われる人間の顔か?」

 隣の、もう一人の主賓が横目で絹を見ていた。

 祝われる顔というのなら、京だって落第点だ。

「な、慣れてないのよ、こういうの」

 ボスに引き取られる前の話は出来ないが、その言葉で察して欲しかった。

「やれやれ、お嬢様なのは顔だけか」

 猫の内側を見せたせいか、結構京は口さがなくなってきた。

 反論しようと思ったら。

「たかが、子供だましの誕生会でビビんなよ」

 テーブルの下で――手を握られた。

 絡み付く、乾いた手。

 変わった男だ。

 絹の本性を垣間見ていながら、それでも好意があるというのか。

 もう、母に似た顔なんかには、惑わされていないくせに。

「ロウソクに火をつけたら、電気消しますよー」

 ペンションのオーナーが、会を始めようと仕切り出した。

 電気が消されたら。

 絹は、思った。

 電気が消されたら、手を離そう、と。
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