ワケあり!
 あ、あ、ああ。

 ボスが包みを持って近づいてくるのを、絹は椅子の背もたれに、へばりつくように見ていた。

 何故に、自分がボスからもらうプレゼントを恐れているのか、分からない。

 でも、恐いのだ。

「京くん…誕生日おめでとう。改良したものだよ、今夜使ってくれるかな」

 差し出される、長いつづら。

 これには、京の目が輝いた。

 天体望遠鏡なのだ。

「い、いいなーっ!」

 了もカンづいたらしく、飛んでくる。

「ありがとうございます」

 さすがの京も、うれしそうだ。

 あう。

 絹の願いは、このままボスが席に戻ってくれること。

 彼から、何かもらいたいわけではないのだ。

 こんな誕生会だって、プレゼントが欲しくてやったわけではない。

 ボスが、広井ファミリーと遊びたいだろうから乗っただけだ。

 だから、絹にとっては本当に単なる茶番。

 彼女の誕生日でさえ、ただの餌。

 だから、ボス。

 席にもど――

「絹」

 呼ばれて、びくっとした。

 ボスの声だ。

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 反射的に、絹は土下座したい気分でいっぱいだった。

 土下座してでも、ボスが差し出すものを辞退したかったのだ。

 絹は――彼のただの道具なのだ。

 ボスは、別に絹が生まれてきたことを、めでたいなんて思ってはいない。

 ただ、この場の体裁を取り繕うためだけに、何かを渡そうとするのだ。

 そして、体裁のためだけに、受け取らなければならない。

 なんて――空虚なプレゼント。

「誕生日、おめでとう」

 差し出される、小さなつづら。

 血の気がひく。

 あの、チョウのついでに作られた、天体望遠鏡の方が、よほど嬉しかった。

「ありがとうございます」

 こんなショックな誕生日プレゼントは、生まれて初めてだった。
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