ワケあり!
 何の味も分からなかった。

 ただ絹は、作り笑いを浮かべて、相づちを打っていただけ。

 一度、プレゼントの包みを抱えて部屋に戻る。

 テーブルに、それらを置きながら、ため息を一つ。

 気力のメーターが、ゼロ近くまで減りきっていた。

 これから、天体観測があるというのに。

 なけなしの気力を残すため、絹はプレゼントをそのまま放置することにした。

 開けると、きっとマイナスまで、落ち込む気がしたのだ。

 はぁ。

 誕生日なんて、素直に教えなければよかった。

 そんな後悔さえ、絹の中には生まれていて。

 コンコン。

 ノックに、はっと顔を上げる。

「はい?」

 ドアが開くと、そこには――チョウがいた。

 おや、意外。

「大丈夫かな? 顔色が悪そうに見えたけど」

 部屋には入ってこず、ドアのところで話しかけられる。

 あいたたた。

 さすがは年の功。

 よく見てらっしゃる。

「大丈夫です、なんともありませんよ」

 すらすらと、絹は嘘をついた。

 全身、嘘の塊なのだ。

 こんなことなど、お手のもの。

「そうか…変なことを言ったね」

 一度、チョウは言葉を切って。

「ところで、絹さんは巧とはうまくいってるのかい?」

 顔色よりも、もっとギクッとすることを聞かれる。

 いまの絹の心を、見透かしたわけではないはずだ。

「勿論です、尊敬しています」

 それだけは、事実だ。

 言葉を、淀ませたりなんかしなかった。

「そうか…昔から巧は風変わりで、女性を毛嫌いしていたからね…年月は、巧をいい方に変えたんだな」

 チョウは、嬉しそうに目を細める。

 いいえ。

 ボスはもっと悪い方に変わりました――その証拠が自分なんて、決して言えなかった。
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