ワケあり!
 望月 桜。

 その資料に印刷された顔は、確かによく似ていた。

 絹の顔を、自然に大人びさせれば、この顔になっていくのだろう。

 享年 28歳。

 事故死。

 ボスや朝と同じ学校、学年、部活。

 ということは、ボスの記憶の中に、何度も彼女は登場しているはずだ。

 おそらく、意図的に脳内で抹殺されているのだろう。

 さすがに、実際には手を下していないだろうが。

 もし、手を下しているのなら、いまだにボスが、桜に忌々しさを覚えるはずがない。

 ざまあみろが関の山。

 生きている間に、勝てなかったからこそ、腹が立ってしょうがないのだろう。

 20で学生結婚。

 21で出産。

 いまも昔も、デキちゃった結婚は健在のようだ。

 叩き上げの技術職から大手電気メーカーにのしあがった広井家。

 あの学校でいうところの成金組。

 そして、桜は。

「ん?」

 絹は、ぱらぱらと書類をめくった。

 肝心の、桜の家のデータがない。

「島村さーん」

 絹は、一枚紙が抜け落ちているのかも、と彼を呼んだ。

「家の情報は…ない」

 はぁ?

 居間に戻ってきた彼の返事は、やはり平坦なものだった。

「余りに大物の子女は、学校にさえ出自を伏せるそうだ」

 はぁ、さいで。

 絹には、理解できない世界だった。

 ともかく、朝よりも遥かに、身分とやらは高かったわけだ。

 ふむ。

「あ、おまえもその口だから」

 絹の思考を、島村がさっくり破る。

「は?」

 口とは、なんのクチのことか。

「おまえも、学校の資料は出自不明扱いだからな」

 いろいろかぎ回られると面倒だから。

 は。

「あははははっ!」

 さすがの絹も、これには声を出して笑わずにはいられなかった。

 光栄なことに、高貴な桜と同じ扱いなのだ。

「ははっ…確かにわたしの本当の身分は明かせないわね」

 桜とは――まったく反対の意味で。
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