ワケあり!
 夏の星は、力強い。

 消耗した気力を、絹は空から吸収するように、大きく深呼吸した。

 ボス、うまくやってるかな。

 結構離れたところに、二人陣取って、何を話しているのだろう。

 よっ。

 絹は、寝そべり観測をやめ、上半身を起こした。

「あれ、絹さん…どこかいくの?」

 了も、身体を起こす。

「ちょっと、先生のところ」

 に、盗み聞きに。

 勿論、最後は心の中だけの言葉。

 割って入ると、絶対ボスに呪われるので、遠巻きに様子を見てくるだけだ。

 多分、うまくやっているだろうが。

 チョウに嫌われると、ボスはまたこの世界の全てを憎むに違いない。

 そっと。

 一瞬、ペンライトが蛍のように閃いた方向へと歩く。

「…が……だな」

 風に乗って、微かな声が飛んできた。

 チョウの声のようだ。

「…ば…に…るよ」

 ボスの声。

 語らっているのだろう。

 穏やかな声だ。

「けど、うちの息子の誰かが絹さんを口説き落としたら、おまえとも親戚づきあいが出来るな、ははは」

 もう一歩近づいただけで、いきなり声はクリアになった。

 な、なんの話をしているのか、チョウは。

「親戚づきあい…」

 ボスが、真面目に考え込むような声。

 いま、「それはおいしい!」とか、考えてませんか? ボス!?

 ツッコみたい気持ちを押さえ、絹は息をひそめる。

 しかし、逆に言えば、それは一生ボスの手駒でいられるということ。

 絹も、真面目に考え込んでしまった。

「まぁ…」

 低い、ボスの声。

「まぁ、絹がお前の息子の誰かに、結婚してもいいほど…惚れたら、な」

 くくっ、と。

 ボスが、笑った。

「オレの息子たちだ、甲斐性はバッチリだぞ」

 仲のいい、旧友同士の単なる軽口。

 なのに。

 絹は、立ち尽くしてしまった。
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