ワケあり!
 朝一でシャワーを浴び、絹は身仕度を整えた。

 枕元に伏せてある、問題のさそり座を、見ないように箱に戻す。

 一体、何を仕掛けているのか。

 玉葱の成分でも、出ているに違いない。

 迂闊にじっと見ると、じわじわくるのだ。

 絶対、変な実験の副産物だと決め付け、絹はプレゼント類をまとめて、一つの紙袋にしまった。

 京のプレゼントは、一つとしてこれには入らないだろう。

 コンコン。

 随分、朝早くにノックだ。

「はい?」

 鍵を開けにドアに近づく。

「おはよ、起きてるなら散歩に行かないかい?」

 あらら。

 声の主は、将。

 二人を出し抜いてくるとは、なかなかやるな。

 確かに、彼が一番朝に強そうな気がする。

「はい、すぐ行くわ」

 気分を変えたかったので、ちょうどよかった。

 一人は気楽だが、余計なことを考えるには向かない。

 邪魔するものがないだけに、際限なく沈んでいくからだ。

「おはよう」

 鏡で最終チェックして、部屋を出る。

「おはようっ」

 嬉しさでいっぱいなのが、気配で分かる。

「よかった…もう起きてて」

 行こう、と手を取られる。

 了とは別の意味で、テンションが高い。

「おはようございますー」

 ペンションのオーナーに、すれちがいざまに挨拶をして、外に出る。

 ひんやりした、気持ちのいい空気だ。

「絹さん、夏休みもまた一緒にどこか行かない? 天文部の観測会もあるけど、それとは別に、さ」

 手を引きながら、将が肩ごしに振り返る。

「そうね、また誘って」

 にっこり微笑みながら、絹が答えると、彼は前を向き直る。

「…二人で、どこか出かけたいなーなんて」

 ぼそっ。

 将が、付け足したそれが耳に入った瞬間。

「きゃっ」

 絹はつまずいた――ふりをした。

「だ、大丈夫? 絹さん」

「あは、ごめんね、大丈夫よ…何か言った?」

 将の腕を支えに態勢を整えながら、絹は彼を見上げる。

「あ、いや…別に」

 将は、言葉をひっこめた。

 あぶない、あぶない。

 京さん、あなたの弟は、意外と油断なりませんよ。
< 174 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop