ワケあり!
 寝巻の意味の浴衣ではなく、きちんとした浴衣に着替えさせられながら、絹はいろいろ考えていた。

 まぁ、興味は失ったとはいえ、織田派の懐に連れて来られたのだ。

 客として扱ってくれるのなら、情報くらいもらっていこう。

 カメラもないことだし。

「やーやっぱり、浴衣はいいねー」

 着付が終わりきっていないのに、勝手に入ってくるな。

 絹は、横目で渡部を見た。

「いきなり、思い付きで私を拉致するなんて…何の冗談?」

 私の顔を、渡部は利用したいと言った。

 それは、綺麗どころという意味か――桜に似ているという意味か。

「思い付きじゃないよ、ちゃんと計画したさ」

 あはは。

 心外だな、と笑う。

「計画って、一人で帰ったのはぐうぜ…!?」

 そう。

 たまたま起きた、出来事のはずだった。

 広井ブラザーズが、身内の事情で先に帰宅したのは。

「おばあさんなら、元気だよ…」

 ニコーリ。

 嗚呼。

 念入りにハメられた。

 広井ブラザーズも、行ってビックリのデマだ。

 しかし、彼らもそれが絹を拉致するための伏線などと、気づくはずもない。

 そして、その後数日、絹が休むということになるわけだ。

 学校には、ボスがうまくごまかしてくれているだろうが。

 逆に。

 そこまで、計画性をもって絹を京都に連れて来たい理由が、ますます気になる。

 この顔が、どんな効果を生むというのだろう。

「あ、そうそう」

 思い出したように、渡部が言った。

「どこかでモリリンに会っても、絶対に声はかけちゃだめだぞ」

 森村も、京都入りしているようだ。

 彼にとっては、忌まわしい地。

「どうして?」

 しかし、そ知らぬフリをして聞いてみた。

 渡部が、どう答えるか気になったのだ。

「まだ…死にたくないだろ?」

 ククク。

 優男の仮面がはがれた隙間から――悪人の顔が見えた。
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