ワケあり!
「偉い人の奥さんに…似てるんだ」
絹は、日傘を回しながら、冷ややかな声を出す。
さっきの男は、彼女を『お方さま』と呼んだのだ。
古い表現だが、屋敷の女主人をそう呼ぶ記憶があった。
「先代の奥さんに、似てるらしいよ、絹ちゃんは」
ふふっ。
日差しをものともせず、渡部は微笑む。
さっきの柴田の顔を、思い出しているようだ。
先代?
一つ前の当主――織田のことか。
いまの織田も知らないのだから、先代と言われても、絹にぴんとくるはずがなかった。
ふぅん。
先代の嫁と同じ顔で、古くからの部下を驚かそうというのか。
ん?
絹は、いま考えたことに、ひっかかった。
ということは。
「望月桜って…誰の妻になるはずだったの?」
もう一人、同じ顔がいたのだ。
「そっちに行ったか…ははは、お察しの通り、当代のお館さまだよ。けど、子供ができたことを、ギリギリまで隠してたからなぁ、頭よかったよ、あの女…おかげで、結婚話はご破算」
本家が気付いた時には、もうほぼ臨月だしな。
渡部は、おかしくてたまらなそうだ。
「なんで、広井の長男が七月生まれか分かる?」
明日は、京の誕生日。
理由なんか、絹が知るはずがない。
首を横に振る。
「一族は、必ず祇園に顔出ししなくちゃいけなくてね…だからあの人は考えたのさ。妊娠が、ぎりぎりまでバレないようにするためには、祇園の終わったすぐ後から、子作りしなきゃいけないってね」
大学卒業したら、すぐ嫁入り決まってたから。
過去の話、だからだろう。
自分の考えていることの邪魔をしないから、渡部はペラペラと桜の話をするのだ。
しかし。
絹には、桜の決意が見えた。
チョウと結ばれるためには、もう既成事実しかない。
次の祇園までに、必ず子供を産まなければ。
そして――京が生まれた。
母が、京都に行かなくていいように、と。
親孝行にも、祇園祭の日に生まれたのだ。
絹は、日傘を回しながら、冷ややかな声を出す。
さっきの男は、彼女を『お方さま』と呼んだのだ。
古い表現だが、屋敷の女主人をそう呼ぶ記憶があった。
「先代の奥さんに、似てるらしいよ、絹ちゃんは」
ふふっ。
日差しをものともせず、渡部は微笑む。
さっきの柴田の顔を、思い出しているようだ。
先代?
一つ前の当主――織田のことか。
いまの織田も知らないのだから、先代と言われても、絹にぴんとくるはずがなかった。
ふぅん。
先代の嫁と同じ顔で、古くからの部下を驚かそうというのか。
ん?
絹は、いま考えたことに、ひっかかった。
ということは。
「望月桜って…誰の妻になるはずだったの?」
もう一人、同じ顔がいたのだ。
「そっちに行ったか…ははは、お察しの通り、当代のお館さまだよ。けど、子供ができたことを、ギリギリまで隠してたからなぁ、頭よかったよ、あの女…おかげで、結婚話はご破算」
本家が気付いた時には、もうほぼ臨月だしな。
渡部は、おかしくてたまらなそうだ。
「なんで、広井の長男が七月生まれか分かる?」
明日は、京の誕生日。
理由なんか、絹が知るはずがない。
首を横に振る。
「一族は、必ず祇園に顔出ししなくちゃいけなくてね…だからあの人は考えたのさ。妊娠が、ぎりぎりまでバレないようにするためには、祇園の終わったすぐ後から、子作りしなきゃいけないってね」
大学卒業したら、すぐ嫁入り決まってたから。
過去の話、だからだろう。
自分の考えていることの邪魔をしないから、渡部はペラペラと桜の話をするのだ。
しかし。
絹には、桜の決意が見えた。
チョウと結ばれるためには、もう既成事実しかない。
次の祇園までに、必ず子供を産まなければ。
そして――京が生まれた。
母が、京都に行かなくていいように、と。
親孝行にも、祇園祭の日に生まれたのだ。