ワケあり!
「ボンが宴会にきてたからね、君が一人だと踏んで……夜這い?」

 あっけらかーんと。

 蒲生は、部屋に入ってくる。

「帰ってください」

 絹は、即答で叩き出そうとした。

 夜這いを自称する男を部屋に入れたら、何をしてもいいと言っているようなものだ。

 大体。

 渡部だけでも持て余しているのに、また別の悪党など扱えるものではない。

「あはは、イッツジョークだよ。何にもしませんよー…多分」

「かえ…ああもういいです」

 この人は、どうも疲れるタイプだ。

 絹は、構うのをやめた。

 構えば構うほど、図に乗っていくお調子者タイプ。

 勿論、織田の一派なのだから、それだけではないだろうが。

「まぁまぁ…ぴーこちゃんに会ったでしょ。さっき、ばぁやも腰抜かしてたし」

 絹の気持ちが、防御に働いたのに気づいたのか、蒲生が話題を変えた。

 ぴーこちゃん?

 ばぁやというキーワードで出てくるのは――絹と似た顔の子。

「ここは、人間に小鳥みたいな名前をつけるの?」

 切り返しに、また蒲生は口をはみ出すほど大きく開けて笑う。

「悪い悪い、ちゃんと名前はあるんだけど、笑うか歌うかしかしないからな、あの子…でも、何で驚いてないのかね、このお嬢さんは」

 笑いながらも、絹の存在を伺いに来たのは分かった。

「この世に、似た人は三人いるんでしょう」

 絹は、あえてはぐらかした。

 この屋敷に、自分の味方など誰もいないのだ。

「先代のお方様、問題児の女に、ぴーこちゃん…それに君、となるとひとり多いな」

 問題児。

 それは、桜のことか。

 絹は、ふっと微笑んだ。

 三人で合っている、と。

 その中に、絹を入れてはいけないのだから。

「ぴーこちゃんは、えらいさんのお嫁さんになるの?」

 あの意識では、遺伝に問題が出そうな気もするが、織田があくまでも顔にこだわるなら、ありえない話ではない。

「どうかな…青柳のおっちゃんとしては、覚醒を待ちたいところだろうねぇ」

 また、変な言葉が出てきた。

 意識がまともに戻るのを、祈っているというところなのか?

 それはまた――気が長そうな話だ。
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