ワケあり!
「送っていく…って」

 呆然と、絹は男を見ていた。

「うん、帰りたいんだろ? 車できてるし…酒飲めないから飲んでないし」

 あっけらかーん。

 大したことではないように、蒲生は言い放つ。

「あなたは、ここにいなくていいの?」

 義務だから、来ているだろうに。

 用心深く、彼を見る。

 どれだけ、あっけらかんとしていようとも、それに騙されてはいけないからだ。

「んー、まあ、殿にも挨拶したし、一応義務は終わったね」

 つまんないじゃん、オッサンたちと話したって。

 蒲生は、自分の言葉に自分で笑う。

 これは、チャンスなのか。

 それとも、将来的な意味のピンチなのか。

 絹には、ひとつの分岐点に見えた。

 おそらく、渡部の予定に蒲生は組み込まれていない。

 それに、ここに長くいればいるほど、絹の人生が歪む可能性があるのもまた、確か。

「制服とカバン…どこにあるか分からないの」

 絹は、慎重に即答は避け、言葉を迂回させた。

 帰らないにしても、それは必要だったのだ。

「お安い御用だよ」

 大きな口が、にーっと横に伸びる。

「保護者に連絡してもいい?」

 ひとつひとつ。

 条件を埋めていく。

「勿論っ」

 即答だ。

 では。

「それで…あなたに、どんなメリットがあるの?」

 これでは、どうだ。

 親切だけで送ってくれるなんて、勘違いしてはいけない。

 だから、聞くのだ。

 このメリットが、納得できないものなら、ついていけるはずがない。

「んー」

 蒲生は、一度天井を見た。

 そして言った。

「クソ生意気な、渡部の鼻をあかしてやりたいじゃないか…新参者のくせに」

 大きな口が――泥を吐く。
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