ワケあり!
「本当の親じゃないだろ」

 電話を切ると、さらっと蒲生に突っ込まれた。

「ええ」

 別にそれは、秘密でも何でもない。

 絹も、さらっと答えた。

「そうだろうな、親って言わないし、言葉も他人行儀…おまけに、何で京都に連れ去られたのに黙ってるんだ?」

 渡部に売られたのか?

 蒲生の言葉に、絹は苦笑するしかない。

 さっきのボスの、低く淡々とした声が気になる。

 あれは、何なのか。

 絹を、渡部に売ったことへの罪悪感なのか。

 渡部――その向こうの織田に逆らうことは、ボスにとってメリットはない。

 渡部が貸せと言ったのなら、ボスは貸さなければならなかったのだろう。

「多分…渡部さんが脅したんだわ」

 絹にいえるのは、それくらいだった。

「ああ、なるほどね…絹の保護者も、織田をまったく知らないわけじゃない、というわけか」

 パワーは鈍器でも、頭まで鈍いわけではないようだ。

 蒲生は、その事実を的確に捉えていた。

「森村さんって知ってる?」

 どうせ調べれば、すぐに分かることだ。

「あぁ、あの『森村氏』か」

 何か――ひっかかる含みを、それに感じた。

 彼の立場を、皮肉って表現しただけだろうか。

「私の保護者は、森村さんの異母兄よ」

 そう言えば。

 きっと、関係が分かるだろうと思った。

 少なくとも、絹の口から『渡部の叔父』とは、言いたくなかったのだ。

「ぶっ」

 運転席で、蒲生が吹き出した。

「ああ、ああ、なるほど! 好色渡部翁の! なるほどなるほど!」

 身内でも、有名なようだ。

「そりゃ、小僧が強気に出られるはずだ…本家だもんな」

 とばっちり、おつかれさん。

 同情しているというより、愉快でしょうがない様子だ。

「そうか…森村氏に絹と、ダブルであの小僧はおさえてるのか」

 クソ生意気な。

 あ、また。

 また蒲生は、森村について、変な表現をしたのだった。
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