ワケあり!
「森村氏って…どういう意味?」

 絹は、どうにも気になって、それを言葉にしてみた。

「ん? どういう意味って?」

 聞かれる意味が、分からないような返事。

「どういう意味って…何か重要っぽい表現をしなかった?」

 青柳の遺伝子材料というだけでは、おさまりきれない何かを感じたのだ。

 ああ。

 暗い車内。

 蒲生は唇だけで、その音をなぞった。

 絹は、対向車のライトでそれを見たのだ。

「織田じゃなければ、関係ない話かな。まあ、彼にはがんばってもらわないといけないけどね」

 うひひひひ。

 やや下品な笑いになるのは、彼のいまの境遇を思ってだろうか。

 羨ましそうな響きに聞こえるのが、絹をいやーな気持ちにさせた。

 ただ。

 織田でなければ関係ないと――要するに、絹には話せない領域のものだと、彼は表現したのだ。

 そこは、大きい。

 こんがらがってきた。

 渡部は、ボスや絹を何かに巻き込むというし、この顔でボスに献上される危険まで出てきたし、森村にはまだ秘密があるみたいだし、蒲生も決して気を許せないし。

「もう、うんざり…渡部さんが、ちょっかい出さなくなる方法ってないかしら?」

 高速道路のインターの案内表示を見ながら、絹はいまになってぐったりと疲れてきた。

「小僧の弱みってことか? それなら、あのねーちゃん人質に取って脅すとかどうだ?」

 あのねーちゃん?

 誰のことだろうと、絹は首を傾げた。
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