ワケあり!
 あの男が、天野さんにねぇ。

 衝撃の事実のせいで、頭の中身がいろいろとブッ飛んでしまった。

 しかし、あの天野を人質に取るなど、絹に出来るはずもない。

 ん?

 ということは。

「もし、あなたが本気で渡部さんとやりあう時は、天野さんを人質に取ります?」

 表だって対立する気があるのかは、分からない。

 しかし、こうして絹を連れ出し、渡部の邪魔をしていることで、仲が悪くなることは間違いなかった。

「あー、どうすっかなぁ…いきなり誘拐するより、フリーにしつつ、危険な目にあわせ続け、それをずーっと小僧に見せ付けるのが楽しそうだな」

 真面目に考え――そして、『THE・悪党』な答えが返された。

 聞いているだけで、胃に穴が開きそうだ。

 しかし、口調からすると、いますぐ何か起こそうという気配はない。

 ただ、大きく発展しない程度に、こぜりあっている感じか。

「あぁ、そうだ」

 指先が、軽くハンドルを叩いた。

「あの小僧に、何か言われたんじゃね? 悪だくみの話」

 教えてほしいなー。

 家まで送ってやるという交換条件が、いきなりここできた。

 高速道路上の車の中。

 走る密室。

 ある意味、脅迫に近い状態でもあった。

 しかし、それは絹にとって、しゃべってはならない秘密ではない。

 それどころか、自分とボスを巻き込むこと必至の話だ。

 蒲生に邪魔された方が、相当都合がいい。
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