ワケあり!
「そろそろナビしてくれ」

 声をかけられ、絹はびくっと目を覚ました。

「その制服ってことは、学校近辺でいいんだろ?」

 運転席もあくびをかみ殺しながら、窓の外を指差している。

 はっと外を見ると、学園前に停車していた。

 知らない間に、つい眠ってしまっていたようだ。

「あ、ここでいいです」

 絹は――反射的に保身に入った。

「ダーメ、いま何時だと思ってんだ、絹」

 言われて、車内の時計を見ると午前2時。

 確かに、制服で一人で歩く時間ではなかった。

「迎えにきてもらいますから」

 絹は、携帯を出そうとした。

 しかし、カバンに入っていない。

「フフーン」

 鼻歌に、はっと運転席を見ると、蒲生の手に燦然と輝く絹の携帯電話。

 やられた。

「携番とアドはもらったぞ…それくらいの役得はいいだろ?」

 不覚。

 気を抜いてしまった自分に、絹はがっくりと肩を落とした。

 蒲生が、役得のためだけにそれを抜いたとは思えない。

 既に、渡部の手にも一度渡っているので、そっちにも番号は抜かれているだろう。

 ボスに頼んで、携帯変えてもらおう。

 故障したことにすればいいのだ。

 そうすれば、広井ブラザーズに、休み中、メールの返事をしなかったことに対しても言い訳ができる。

「で、家はどっちだ?」

 この強引さが、絹をぶん回す。

 渡部のような軽やかさはないのに、力強すぎて逆らえないのだ。

「そのまま…まっすぐ」

 ボス、すみません。

 だんだん、ボスの顔を見るのが憂鬱になってきた。

 本当に、失態続きだ。

 きっと渡部から、ボスにも何らかの圧力がかけられたろうし。

「そこを左…」

 曲がると、玄関が見える。

 明かりがつけられていた。

 嬉しいような――開けたくないような。
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