ワケあり!
「まだ顔色よくないよ、大丈夫?」

 玄関先の了。

「明日はもう、終業式だもの。大丈夫よ」

 その頭に手を伸ばし、軽くなでる。

「大丈夫…オレがフォローするよ」

 車に乗り込むと、たのもしい将の言葉。

「ありがとう」

 そして。

 沈黙の助手席。

「京さん」

 動きだす車の背もたれに身体を預けながら、彼を呼んだ。

 右手だけが、座席の横から出て、聞こえていると合図。

 すぅ。

 絹は、息を吸った。

「誕生日…おめでとう」

 京都を逃げ出したおかげで、今日が17日だ。

 広井夫妻にとって、運命の日。

 彼が生まれなければ、将も了もこの世にはいなかった。

 まさしく、運命の一人目。

 次男と三男は、その事実に嫉妬さえしていい。

 一人産むごとに、夫婦は安心していった。

 了を産む時にはもう、穏やかな気持ちでさえあったろう。

 京は、本当に特別な願いがこめられて産み落とされた。

 絹の胸にさえ、嫉妬に似たものがある。

 自分が昔、誰かにとって特別だったことすら、よく思い出せないのだから。

 はみ出ていた京の右手が――動きを止める。

「…別に、めでたくねぇよ」

 手は、ゆっくりとひっこめられた。

「京兄ぃ、もしかして照れたの?」

 にやにやしながら、了が前の座席に覆いかぶさるように、上から侵入を試みる。

 ゴン!

 そんな領空侵犯の三男の額を待っていたのは、拳のミサイル。

「いっ」

 もろに入って、了は押し返され、おでこをおさえる羽目となる。

「京兄ぃの名前、強いの強か、狂うの狂に改名希望ー!」

 ぶーぶーと、了が反撃する。

 京。

 その名前や、誕生日も全て――母のルーツ。
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