ワケあり!
 終業式の朝。

 新しい番号とメアドの携帯が渡された。

 もちろん、それ以外の小細工もしっかりしてある。

「ただ」

 渡す時に、島村が呟くように言った。

「ただ…相手が本当に調べようと思えば、すぐに新しい番号も知られるぞ」

 まったく、その通りだ。

 だから、番号を変えるなんていう手法では、堂々巡りになるだけだと。

 派閥の違う、渡部と蒲生が絹を利用しようとしている。

「ボスと私を巻き込む計画って…何をする気だろう」

 絹については、せいぜい顔を利用するくらいだろう。

 織田という、ボスの嫁にはこの顔だと――変なこだわりがあるようだから。

 昨日の夜。

 ボスや島村を交えて、カメラが記録していない間の見たことや、渡部の話を説明した。

 本来なら、よそのお家事情など、ボスも聞きたくないだろうが、巻き込むと宣言されているのだから、話しておく必要があったのだ。

「先生の血筋的には、利用するところはない。消去法で…渡部が、何らかの科学力を必要とする可能性がある」

 歓迎しない口ぶりだ。

 それもそうだろう。

 もしも、誰かのために科学を使おうと思っているのなら、こんな家に引きこもっているはずがない。

 彼らは、自分のしたい研究をしているだけだ。

「ただ逃げ続けるより、適当に協力するのもアリだがな」

 その唇が、不承不承言葉を続けた。

 えっと、絹は島村を見る。

「協力することで、向こうがおとなしくなるなら、それに越したことはないだろう。毎回、拉致られたいのか、お前は」

 あー。

 耳が痛い。

 施設の指導員クラスの相手を出されると、どうにも絹では手に余る。

「ただし、それはあくまで織田からの依頼なら、な…派閥争いしてるような、神頼み小僧からの依頼を、いちいち受けてたらキリがない」

 背中を向けて、彼は行ってしまった。

 そうか。

 島村の言葉に、ヒントがあった。

 彼はあくまでも、織田の手下に過ぎない。

 その組織の中から追い出されてしまえば、ボスや絹にちょっかいをかけるどころではなくなるのだ。

 渡部の、足元をすくいたい男なら――いるではないか。
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