ワケあり!
「絹さん…何か隠してる?」

 教室で。

 他の人には聞こえないくらいの声で、将がそう言った。

 車の中で、京が余計な事実を並べたせいで、彼にまで疑惑を持たれてしまったようだ。

「隠すって…何を?」

 絹は、困った風に笑ってみせた。

 詮索されないための、予防線だ。

 将は、空気を読む次男坊。

 聞かれたくないことと察したら、一歩引いてくれるはず。

「うん、いろいろ。兄貴の言ったこともそうだし、時々、絹さんは知らないところで動いてるみたいだから」

 だが。

 今回、将は引かなかった。

 自分の中の疑問を、並べてみせてくれる。

 同じクラスというのは、便利と同時に厄介だ。

 他の二人より、話す時間が長い。

 もし、京が同じクラスなら、いまごろ彼にいろいろ問い詰められていたに違いない。

 あっちの方は鋭いが、将はどっしりとして粘り強さを感じさせる。

 責めたり、きつい言葉は使わないが、しっかりと絹をまきつけるのだ。

 こうなったら。

 彼女は、秘密の少しを見せて納得させるしかなかった。

 隠せば隠すほど、彼の瞳は疑惑を増やすだけだ。
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