ワケあり!
「先生の親戚に…少し困った人がいて…それでトラブルがあるだけよ」

 絹は。

 白状します――という気配を漂わせ、ため息をもらしてみせた。

「私の携帯番号とか、抜かれてしまったみたいだから、用心に番号を変えたの」

 これで。

 京の言った物事は、全部つながったはずだ。

 ボスが、本当はどういう理由で、チョウを訪ねたのかは知らない。

 だが、こういうことを相談に行ったのだと、将に理解させればいいのだ。

「絹さん…本当は、ものすごく困ってるよね」

 絹のコーティングなど無視して、将はそう言った。

 核心を突く一言。

「そうね…どちらかというと困ってるわね」

 観念した。

 空気を読める男というのは――心の動きに、誰よりも敏感だ、ということ。

 困ってないという嘘を言うと、疑いが増す一方だろう。

「うん、分かった」

 将はそれだけ言って、前を向いてしまった。

 え?

 絹は、あっけにとられた。

 もっと突っ込んで聞かれるかと、思っていたのだ。

 しかし、困っている事実を確認しただけで、将は話を終わらせてしまった。

 聞くだけで、満足だったのだろうか。

 将の考えが何だったのか――分かるのは、翌日のことだった。
< 209 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop