ワケあり!
「迎えにきたよー!」

 車に乗っていたのは、了と――将。

 夏休みの間の必要な荷物は、結構大きくて。

 運転手さんが、トランクに運んでくれた。

「お世話になります」

 嬉しくて飛びついてきそうな了にも、今日は少しおとなしい対応になってしまう。

 乗り込む前に、玄関を振り返った。

 勿論、そこは閉ざされたままで、誰も見送ってくれてない。

 当たり前のことなのに、いまは何かいやな感じだった。

 また、帰ってこられるのだろうか。

 そんな、漠然とした不安。

 ボスが、広井家に反応しないほど、深く考えている気がするのだ。

 もしも。

 もしも、ボスがもう広井家のことはいいと言ったら。

 絹は、お役御免だ。

「絹さん? 行くよ」

 立ち尽くしたままの彼女は、了に引っ張られて我に返った。

「うん」

 将の待つ車内に乗り込む。

 了も乗って、いつもの後部座席。

「夏休みの間、よろしく」

 この大技をかました張本人に、笑顔で迎えられる。

「こちらこそ…昨日言ってたのは、このことだったのね」

 絹が、あの時理解できなかったこと。

「そんな、大げさに考えないでいいよ…楽しく過ごせたらいいね」

 少しずつ、やんちゃさが抜けていく面差し。

 この、どっしり感は、一体どこで育まれたものなのか。

「では、参ります」

 運転手さんの言葉で、車が走り出す。

 その一瞬だけ。

 両側の二人の存在が、吹っ飛んだ。

 自分背中に、沢山の糸がある気がする。

 その糸は、玄関にくっついている。

 車が進む度に、その背中の糸が引きちぎられていく気がした。

 ブチブチブチッ。

 なんだろう。

 とても――かなしい。
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