ワケあり!
「何してんだ?」

 居間に下りてきた京が、室内の様子を見て、呆れたようにそう聞いてきた。

 クーラーのよく効いたそこにいるのは、三人。

 将、了、そして絹。

「何って…宿題ー」

 了が、ノートをがばっと広げてみせる。

 京は、眉間を押さえた。

 余りの真面目な空間に、頭でも痛くなったのか。

 この流れになったのには、ワケがある。

 案内された部屋で、やっと落ち着いた頃、とにかく了が部屋に遊びにきたがったのだ。

 将に釘を刺されていたので、「宿題でもしようかな」と、やんわり拒絶したら。

「じゃあ、僕も一緒に宿題やる!」――で、居間でこういうことになってしまったのだ。

 部屋ではなく、居間なら一緒にいられるので、その方がボスにもいいだろう。

「まぁ、いいけどな…」

 それでも、京はイヤそうだ。

 彼らにとっては、毎年の苦痛だろう。

 しかし、絹にとっては、新鮮な感覚だった。

 生き残るために、必死でやる勉強じゃない。

 なんて、のどかな勉強。

 ただ、学んできたのが偏った知識だったために、足りない部分は自力で補うしかなかった。

 歴史や文学といった、絹には無縁な知識が、学校とやらでは必要なのだ。

「女の人のほうが、国語得意そうなのにね」

 将が、絹のノートを指差した。

 間違えているのだ。

 くせのない綺麗な自分の字。

 違う。

 くせは、消された。

 画一化された、個性のない文字。

 けしけし。

 それを消し去る。

 人の心を読み解く国語は、しかし、リアリティがない感じがして好きにはなれない。

 夢見がちだろうが、絶望的だろうが、共感できないのだ。

「あ、国語と言えば」

 将が、思い出す声で言った。

「暇なときは、母さんの部屋の本借りるといいよ」

 おっと。

 複雑なことに。

 桜の部屋の出入り許可を、いただいてしまった。
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