ワケあり!
 それは、昼休みのこと。

 息のつまる教室を出て、絹は中庭のベンチで深呼吸していた。

 昼食は、学食を利用するつもりだが、早い時間は混むので、時間をずらすのだ。

 将は、きれいにこしらえられた弁当持参だった。

 きっと、家にシェフでもいるのだろう。

 男友達数人と食べているので、この時間の仕事はフリーだと思っていた。

 そんな彼女に、影が落ちた。

 見上げる。

「高坂さん、いま一人?」

 見知らぬ、男子生徒。

 もしかしたらクラスメートかもしれないが、広井ブラザーズに忙しいから、他の男など、見てはいない。

「すみません、人と待ち合わせなんです」

 こんなシーンを、ボスが見たいはずがない。

 さっさとやりすごそう。

「広井なら、バカづらで弁当食べてるよ。彼以外に、まだ知り合いいないでしょ?」

 勝手に隣に座るな。

 そして、将をバカづらと言うな、とも思った。

 今頃ボスが、この男目がけてミサイルを発射しようとしているかもしれない。

「本当に、待ち合わせですから」

 これでも立ち去らないなら、絹が移動するしかない。

「そう邪険にしないでよ、友達になりたいだけなんだから」

 手が――伸ばされる。

 はぁ。

 絹は、ため息をもらした。

 肩を抱こうとしているようだ。

 手が着地する前に、立ち上がって逃れようと思った。

 が。

「いだだだだ!」

 突然、男は情けない悲鳴をあげる。

 驚いて隣を見ると、腕を後ろに持っていかれていた。

「待ち合わせだっつってっだろ」

 ベンチの後ろ。

 悪者の腕をひねりあげている、その騎士は。

「京さん…」

 昼休みの息抜きが――ボスのお土産をつれてきた。
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