ワケあり!
「良品部、ってやつのせいだろ」

 京はため息混じりに言ったが、声に嫌悪感は感じない。

「りょうひんぶ?」

 復唱するが、ぴんとこない。

「半期に一度認定される、いいものを作った優秀部署のことだよ」

 へぇー。

 将の、シンプルな説明に、絹は感心の声をあげた。

 そんなシステムがあるのか、と。

「良品部には、金一封が出るし、開発費ももらえるから、みんな頑張ってるんだよ」

 あの了の口から、開発費というものが出るなんて。

「おかげで、うちの会社は、自分の部署を愛する馬鹿でいっぱいになりましたとさ」

 京が、にやにや笑う。

「しかもね、良品部の指定は、ひとつの部だけじゃないからね。他の部と争う必要はないんだよ」

 将の補足に、チョウの経営手腕というものを垣間見た。

 三兄弟が、会社のシステムを把握しているのもすごい。

 しっかり、叩き込まれているようだ。

 良品部、ねぇ。

 明るい企業姿勢だ。

 他の部署との軋轢を生まず、なおかつ自分の仕事に情熱がわく。

 だから、あんなに活気があったのか。

 最上階で、エレベータが開く。

「おはようございます」

 総合秘書、というプレートの女性が頭をさげる。

「社長は在室です、どうぞ」

 真正面の社長室のドアを開けると、そこは社長秘書室。

 なかなか、チョウまでたどりつけないようだ。

「社長…ご子息がお見えです」

 そしてようやく、社長室へと到着するのだ。

「お、きたな」

 ワイシャツ姿で、チョウが出迎えてくれる。

「パパ! 絹さんは何部に行くの!?」

 大事なことといわんばかりに、了がいきなり切り出す。

「ああ、言ってなかったな…絹さんは…」

 一度、チョウがこっちを見る。

「絹さんは…私の秘書をしてもらおう」

 にっこり。

「えー」
「ありえねー」
「パパ、ずるい」

 チョウの提案は、三人の恨みを買ったようだった。
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