ワケあり!
「ありがとうございました…助かりました」

 逃げ去ったクラスメート(?)に、感謝しなければ。

 絹は、まさか京が釣れるとは思わず、我知らずにこやかになっていた。

 写真と、今朝、座席ごしに見た顔。

 じっくり見ておきたかった。

 将の輪郭を荒削りにして、やわらかい髪を嫌うような逆立て、目を少し細めると――京になる。

「たまたま、通りかかっただけだ」

 不承不承。

 そんなポーズで、絹の言葉を素直に聞き入れない。

「でも、助かりました」

 にこり。

 さて。

 京のような悪ぶりたい男は、どう攻めるべきか。

 下手に押すと、逃げそうだ。

 引いてみるか。

 絹は、それ以上京には構わず、空を見上げてため息をついた。

 あたたかい春の日差しを浴びながらも、意識はベンチの後ろ、だ。

 少しの沈黙。

「待ち合わせの相手、まだこねーのか?」

 よしっ。

 自分から話を振ってきた京に、絹は心でガッツポーズを作った。


 ボス、やりました。
< 23 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop