ワケあり!
「多分、息子たちは社食に行ってるな…一緒に昼食でもどうだい」

 最後の部署を出た時、チョウは腕時計を見てそう言った。

 気づくと、12時10分。

 お昼休みの時間だ。

 さっきいた部署からも、次々と食事へと人が出て行く。

 昼休みになっても、社長を引き止めていたのだから、やはりすごい熱意である。

「はい、ご一緒します」

 絹は、チョウについて行くだけだ。

「社食では、仕事の話は持ってこないように言ってるから、ゆっくりできるよ…ははは、騒がしかったろう?」

 しかし、もみくちゃにされるのは嬉しそうだ。

 イヤなら、巡回などするはずがない。

「元気な、いい会社ですね」

 絹の知識では、他社と比較できないが、個性的な会社だと伝わってくる。

 ここに勤めた後、他の会社に入ったら、退屈でしょうがなさそうだ。

「極上のほめ言葉を、ありがとう」

 にこにこと上機嫌。

 絹まで、つられそうな影響力のある笑顔だ。

 社食につくと。

「こっちこっちー」

 了が、手をぶんぶん振っている。

 将もいるが、後一人は見えない。

「京さんは?」

「まだ部署じゃないかな…温P、だっけ兄貴は」

 おんぴー。

 また、変な略語が出てきた。

「ああ、今の温Pはすごいからな…京も興味が尽きないんだろう」

 食事を取りに行きすがら、しみじみとチョウが呟く。

「温Pって、なんですか?」

 わかめうどんを頼みながら、絹は聞いた。

 チョウは、がっつり定食を掴んでいる。

「ああ…地球温暖化防止プロジェクトの略称だよ」

 だから、温Pなのか。

「巧のおかげでね…プロジェクトはいま大わらわさ」

 そこに、ボスの名前が出てくるとは思わなかった。

 あのボスが、地球を救うプロジェクトに貢献?

 これは――なんという笑い話なのだろうか。
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