ワケあり!
 ほとんど丸一日、立ちっ放しだった。

 朝、久しぶりにトレーニングをしたせいもあって、かなり足の方にきている。

「おつかれさまー」

 退社時間になって、将と了と合流する。

 しかし、一人足りない。

「京さんは?」

 まだ、温Pだろうか。

「ああ、父さんの車で帰ってくるって…初日から頑張るね」

 そっか。

 来週、発表と言っていたので、その準備でおおわらわなのだろう。

 チョウが、一番長くいた部署でもあった。

 それだけ、気にかけているということだ。

「絹さん、ナンパとかされなかった? 大丈夫?」

 車に乗り込みながら、了が頓狂なことを聞いてきた。

 ぷっと吹き出してしまう。

 何の心配をしているのか、と。

「社長とずっと一緒だったのよ、私」

 その環境で、ナンパをしかけてくる強者は、さすがにいなかったようだ。

 それどころか。

 社長と並ぶと、社員にとっては「社長>>(越えられない壁)>>絹」だった。

 皆の目は、社長しか見えていない状態で、一体絹にどうしろと。

「そっか、パパとずっと一緒だったんだ……」

 パパのバーカ。

 最後の最後で、消え入るほど小さく、了がぼやいた。

 絹がナンパされなかったことより、父親への嫉妬が噴出したようだ。

 困った甘えん坊だ。

「エンタメ部で、了は何やったんだ?」

 将は、弟の欝を取り払おうと、別の話題を持ち出した。

 それは、絹も気になっている。

 今日一日あっても、全部の部署は回れなかったのだ。

 了のいる、エンタメ部は一体どんなところか。

「えへへー、新作ゲームのテストプレイ!」

 なぜか、Vサインをする了。

 とりあえず――とてもとても楽しかった、ということは伝わってきた。

「それって…遊びじゃないか?」

「ちっがーう! ちゃんと意見書も書いてるー!」

 将の穏やかなツッコミに、了は頭から湯気を出す。

 あらら。

 話をすり替えたつもりが、了のご機嫌は更に急降下していった。
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