ワケあり!
「おかえりなさいませ」

 帰宅を、アキたちに迎えられる。

 アキ、という存在を、大きいものに感じた――朝。

 そのせいで、誰よりも彼女に目がいってしまう。

 自分より強く、凛とした存在。

 今まで、彼女の周囲にはいなかったタイプだ。

「おなかすいたーっ」

 了は迷う事無く、ダイニングに向かうつもりのようだ。

「着替えてきますね」

 弾丸小僧の背中を見ながら、絹は先に部屋に戻ることにした。

「了、お前も着替えてこいよ」

 将が、一応引き止めてみている。

「えー」

 不満の限りを詰め込んだ顔が、二人を振り返る。

 いつもの可愛い了を、維持できないほどおなかがすいているのか。

 しかし、二人とも二階に向かおうとしているので、しぶしぶ戻り始める。

 そんな了をおかしく思いながら、絹は部屋に入った。

 ふと。

 違和感を感じた。

 ああ、そうか。

 この家では、使用人たちが普通に人の部屋に入るのだ。

 掃除やベッドメイクや、洗濯物など。

 その感覚に、絹が慣れていないだけ。

 朝、訓練に使ったシャツやジャージも、綺麗に洗って畳んである。

 きっと、アキがやったのだろう。

 ふと。

 枕元に違和感があって、絹は視線を投げた。

 あ。

 倒していたはずのものが、すっくと起き上がっていたのだ。

 それは――さそり座のフォトフレーム。

 つい持ってきてしまったが、見ると自爆なので、倒しておいたのだ。

 アキが、きっと「倒れた」と勘違いして、戻してくれていたのだろう。

 絹は、ダッシュでそれを倒した。

 持っていたいのに、直視できないという、矛盾のシロモノ。

 ふぅ。

 絹は、ベッドに腰かけながら、ため息をこぼしていた。

 ボスは今頃、何をしているだろう。

 まだほんの数日なのに――もう、何ヶ月も会っていない気がした。
< 234 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop