ワケあり!
「絹です」

 家に帰り着いて部屋に戻ると、蒲生より前に――島村に連絡した。

 いま、向こうがどういう状況か知るためだ。

 島村に電話するのは、これが初めて。

「蒲生から電話が来たの…渡部がボスに絡んでるって」

 とにかく、ボスの安否が気になる。

 蒲生の連絡は、カメラからの情報で、大体把握はしているはずだ。

『先生なら無事だ…渡部のことも気にしなくていい』

 淡々とした口調。

 いつもどおりだが、内容が気に入らなかった。

 渡部のことは、気にしなくていい。

 絹を拉致した、明らかに何か悪巧みをしている人間を――気にしなくていいなんて!

 ありえない!

 逆に言えば、そのありえない状況がありえるのは。

 ボスが、渡部に協力すると決めたことだ。

「ボスは…何をさせられるの?」

 ため息をつきながら、絹は結論を口にした。

『お前は、無事夏休みをすごせ』

 解答は、なかった。

 絹に――おそらく、拉致されたりするな、という意味合いの言葉をこめただけ。

「隠されると、動きようがないわ」

 もう一押し。

『……動くな』

 プツッ。

 話は終わりだとばかり、携帯電話は切れた。

 彼も、ボスの件で機嫌がよくなかったのかもしれない。

 とりあえず、わずかな情報を汲み取ろうとしてみた。

 ボスは渡部側につき、何かをする。

 絹がさらわれずに夏休みを過ごせば、その間にその何かが終わるのだろうか。

「んー」

 しかし、要領を得ない。

 あんな古式ゆかしき織田が、ボスの未来的マッドサイエンティストの力を必要とするなんて。

 調べる糸口があるとするなら、蒲生も言った『石橋』という科学者だ。

 織田のお抱えだったらしいし、ボスはその弟子で。

 そこで学んだ何かが、必要とされているのかも。

「…………」

 絹は、携帯電話を見つめる。

 蒲生にかけなければならないのだが――いやだなぁ、という気持ちと軽く葛藤したのだった。
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