ワケあり!
「あれ…ウソです」

 苦笑を浮かべ、絹は白状した。

 待ち合わせがあるなんて嘘っぱちだ。

 その秘密を京にバラすことで、間の壁を少し壊したように見せる。

「あ、あぁ、なんだ、ウソか」

 どさっ。

 隣に人影を感じ、ちらりと見ると、京が背もたれに両腕をかけるように座っていた。

 誰もこないと分かって、座ってもいいと思ったのか。

 すぐには、立ち去らないでいてくれるようだ。

 ボスは、今頃喜んでいることだろう。

 さすがに、今日は赤飯はないだろうな。

 昨日のことを思い出して、絹は目を細めた。

「お前…」

 呼ばれて、はっとする。

 京の相手を、おろそかにするところだった。

「お前…あんまり、一人でいない方がいいぜ」

 空を見上げながら、何気ない感じでそう言われた。

 一人でいるなと、言われても困る。

 広井ブラザーズのみがターゲットなのだ。

「結構、一人でこうしているの…好きなんです」

 多少、風変わりに思われるかもしれない。

 学園生活を、エンジョイしにきているわけではないのだ。

 彼らに疑わせないためには、多少エキセントリックでもいいだろう。

 この顔なら、それも許されるに違いない。

「お前、美人だから気をつけろっつってんだ…将でもいいから、虫よけにつけとけ」

 自分の弟を捕まえて、殺虫剤扱いか。

 それよりも。

「美人…私が?」

 一瞬、身体からドス黒いものが、漏れだすかと思った。

 絹は、それをあわてて飲み込みながら、白い自分を演出する。

「あ、ああ、自覚したほうがいい…徒歩通学なんかしてると、さらわれるぞ」

 京の言葉は、滑稽の極みだった。

 絹はカメラ、マイクの他に、体内に発信機が埋められている。

 たとえ、彼女が真っ裸にされたとしても、発信機が自分の位置をボスに伝えるだろう。

 絹も、おとなしく捕まってなどいない。

 最悪なものは、突然の死だけ。

 それ以外は――きっとボスがなんとかしてくれる。
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