ワケあり!
「夏休みになる前にね…」

 お茶を出したアキが下がると、チョウはゆっくりとしゃべり始めた。

 絹をソファに座らせ、自分は窓辺の方を向いている。

「巧が、一度うちに来たんだ」

 聞いたことのある話だ。

 確か、車の中で。

 三兄弟の誰かが、そんなことを絹に言ったのだ。

「あの時の巧は、見たことがなかったな…とても弱っていた…事情は余り話さなかったが、とにかく疲れ果てていた」

 それが、京の誕生日の前日だと、チョウは言う。

「絹さん…その日、君はどうしていたのかな?」

 答えなど、考える必要はなかった。

 京都にいた時だ。

 しかし、答えられるはずもない。

 表向きは、病気で欠席の日だったのだから。

 答えない絹に、チョウは返事を強制したりはしない。

 ただ、話が続く。

「そのもう一日前…不思議なことがあった。親戚の危篤の知らせだ…私は、息子達にすぐに病院に向かうよう告げた。私も向かった…しかし、その連絡は…嘘っぱちだったんだよ」

 長い言葉の中に、疑惑の種が見える。

 チョウが、たくさんの違和感を覚えている気配が、一言ずつにこめられているのだ。

「その翌日、君は病気で休み…巧が青い顔でこの家に転がり込んできた」

 あぁ。

 絹は、ゆっくりと目を閉じた。

 チョウが、言葉をつなげていっているのが分かったからだ。

「私はね…推理したんだ。あの危篤の連絡は、いたずらでもなんでもなく、息子達を君からひきはがすために仕組まれたことなんじゃないか、ってね」

 かちっと。

 パズルピースを、はめおえた音がする。

 絹は目を閉じたまま、その微かな音を聞いていた。

「そして…将が言った。『絹さんが、危ないみたいなんだ』、と」

 目を閉じていても、チョウがすぅっと動いたのが伝わってくる。

 絹の側にくる。

 そして、膝をついて目の高さを下げる。

「間違っていたら済まない…」

 前置きがなされた後。

 こう聞かれた。

「もしかして、危ない理由は…『桜』のせいかい?」

 何て――聡明な男。
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