ワケあり!
「校内で、一人でいられるところがないのも困りますし…車通学したいなんて…言えません」

 将には親しみやすさを。

 了には優しさを。

 そして、京には少しの反発を。

 彼の思い通りには、ならないのだ。

 それを、肌で感じてもらえればいい。

「親に送ってもらえば、いいだろ?」

 わざわざ、運転手を雇うお金の余裕がないと思われたか。

 話が、面白い方向に転がってきた。

 それを、絹は逃さない。

「父も母も…いないんです」

 真実でもありながら、絹という存在の設定でもあるそれを、ひらめかせる。

 言うことは聞かないが、絹の秘密を見せる。

 遠さと近さ。

 飴と、鞭。

「あ、すまん…」

 そして、京の心に――母の死を甦らせる。

「いえ…いいんです。いまは、とても幸せですから…ただ、お世話になっている方に、今以上のご迷惑はかけられません」

 こんな素晴らしい高校まで、通わせてもらっているのに。

 絹の身の上話を、京は静かに聞いている。

 心に死んだ母、桜が頭にちらついていることだろう。

「だから…さらわれることがないよう、がんばります」

 こう見えても、意外と強いんですよ。

 絹は、健気さをアピールした。

 彼らの想像以上に、本当に強いので、それに嘘はなかったが。

「…天文部」

 ぼそっ。

 京が、長い沈黙の後、そう切り出す。

 部活が、どうしたと言うのだろう。

「天文部、入ったんだよな?」

 将か了が、しゃべったのか。

 朝初めて出会ったばかりなのに、情報が早いことだ。

「はい、そうですが…」

「オレもユーレイだが、一応部員だ…これから、帰りはうちの車で送ってやる」

 あっは。

 本当に、絡んできた男子生徒には感謝しなければ。

 おかげで、京公認の帰りの足を手に入れたのだ。
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