ワケあり!
「お前は、天才だー!」

 帰りついた絹は、ボスに絶賛された。

 わざわざ、玄関まで出迎えてもらえるほど、喜んでいるようだ。

 もう、広井家の車は走り去った。

 見送った後に、絹は家に入ってきたのだから。

「すみません、勝手に家を教えて」

 一応、絹は午後にマイクにしゃべりかけたのだ。

『教えてマズイことがあれば、何かで知らせて下さい』と。

 信号弾でも打ち上がるかと、授業中は時々窓の外を見ていた。

 しかし、外は静かなまま。

「はっはっはっ、大丈夫だ。家の中に入れたって、ボロは出さないぞ。最悪、自爆システムも搭載だ、この家は」

 高らかに笑うボス。

 自爆システム、ついてるのか。

 絹は、別の方向に感心していた。

 さすがは、マッドサイエンティスト。

 やることが違う。

「いやあ、京くんの悪っぽさは、チョウへの反抗かな…跡取りなんかにならないゾ☆、とか言ってるのだろうか…ああっ」

 うっとりと、幸せそうだ。

 ボスの様子に、絹も嬉しかった。

「あ、つまらん他の男には、くれぐれもうつつを抜かすなよ!」

 うっとりから、少し時間がたつと、鋭い釘を刺された。

 絹が、うつつを抜かしていないのは分かっているだろう。

 しかし、そのどうでもいい男に、将をバカ扱いされたのが、気に入らないのだろう。

「もう少しで、追尾型プチミサイルの在庫が、一つ減るところでした」

 島村が、頭をかいている。

 やっぱりボスは、物騒なことを考えていたようだ。

「気をつけますが…ちょっとこの顔は、高級すぎますね。余計な魚が寄ってきそうです」

 絹は、不可抗力は認めて欲しいという意味で、そう言ったつもりだった。

「そう…大物を釣り上げてもらわなければ、困るんだよ」

 しかし、ボスはくくく、と怪しげに笑う。

「究極の目的は…チョウなのだからね」

 言葉に、絹は海よりも深く理解した。

 要するに、三兄弟を足掛かりに、家にまで入り込み、チョウと接触してこいと――そう言うのだ。

 家に行く、口実ね。

 絹は、新たなミッション追加に、静かに思案をめぐらせたのだった。
< 26 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop