ワケあり!
 将と一緒に天文部に到着すると、すでに京と了は来ていた。

「絹さーん!」

 了に手を振られ、絹も小さくそれを返す。

「おっ、高坂さん、来たね」

 部長と紹介された男が、まるで彼女を待っていたかのような発言をする。

 軽く会釈だけして、やりすごそうとしたが、話は続けられた。

「高坂さんの、歓迎観測会を考えてるんだけど、夜に出られるご家庭かな?」

 へぇ。

 絹は、話の内容に動きを止めた。

 なかなか、そそられる話のようだ。

 しかし、まだ広井ブラザーズが行くとは決まっていないので、即答は避ける方向にする。

「どうでしょう…聞いてみないと」

 ちらりと、京に一瞬視線を送った。

 彼には、絹の秘密の事情を話している。

 秘密、と言っても、絹という存在の架空の秘密だが。

 こうすることで、京は自分に送られた、ヘルプの視線だと思うだろう。

「えー絹さん、行こうよー。観測会楽しいよー」

 了の言葉から読み取ると、どうやら参加方向のようだ。

「丘の上でみる星座は、絶品だよ」

 将も、気合いをこめてアピール。

 丘。

 ボスも、そこで観測したのだろうか。

 朝と一緒に。

「うちの車で、ちゃんと家まで送るって、保護者に言っとけ」

 ついに、京参戦。

 絹が、交通手段に困っていると考えたのか。

 親ではなく、保護者という単語を使うところが、二人の間の秘密を、暗に匂わす。

「ありがとう、京さん。じゃあ、帰って聞いてみますね」

 大体、行くことは決まった。

 聞くなど、単なる話の流れにすぎない。

 ボスが、拒むはずがなかった。

 さて。

 夜の観測会か。

 カメラが効かないかもしれないから、ボスと相談する必要がありそうだった。
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