ワケあり!
 それから。

 長く長く暗い時間を、絹はすごした。

 すごしたことさえ、彼女は意識できなかった。

 その暗さの中に、自分のすべてが溶け出していったせいだ。

 限りなく無に近い状態。

 いや、既にそれは無、だったのかもしれない。

 だが――永遠ではなかった。

 永遠という言葉は、絹を置き去りにしたのだ。

 白い白い、光が差してくる。

 ああ、朝か。

 気泡のように、言葉がわいた。

 星、夜、朝。

 断片的な情報が、わいては消える。

 すぐそこが、水面なのだ。

 気泡が消える、ほんのすぐそこ。

 浮き上がればいい。

 白い光の方へ。

 朝だ。

 絹は。

 生まれ落ちるように、目を開けた。
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