ワケあり!
 ピンポーン。

 朝食が、ちょうど終わる頃。

 チャイムが鳴った。

 誰も訪ねてこない家を考えれば、珍しい出来事だ。

 いまこの家で、普通の活動をしているのは、絹一人。

 ボスと島村は、寝ているか、地下の秘密部屋で怪しげなことをしているか。

 だから、応答に出るのは、絹以外になかった。

「はぁい、どちらさまでしょう」

 インターフォンの通話を開く。

 カメラには、何も映し出されていない――と思ったら。

「ばぁーっ!」

 下からいきなり、了が飛び出してきた。

「了くん…」

 絹は驚きながらも、ボスを探してしまった。

 リアルタイムで見せたかったのだ。

 しかし、残念なことに、ボスはこなかった。

「今日から、お迎えもするよっ! 準備できたら、出てきてー」

 天真爛漫な了の声に、はははと声にしない笑いを浮かべた。

 だいぶ、彼女に入れ込んできてくれたようだ。

 誰の提案かは知らないが、ご苦労なことだ。

 インターフォンにも、録画機能を付けた方がいいかもしれない。

 帰ってきて相談しようと、絹は準備をして玄関を出た。

「絹さーん、おはよー」

 了は車を下りて、玄関前で待っていた。

「おはよう、了くん。朝までありがとう」

 腕を取られながら、絹はお礼を言った。

「おはよう、絹さん」

 ドアが開いて、中から将に招かれる。

 今日は、彼女が真ん中かと思ったら。

「へへへっ」

 了が、するっと先に乗り込んだ。

「将兄ぃ、もちょっと詰めてよ」

「てめっ」

 兄弟の攻防を、目を細めて見ていると、視線を感じて、ふっと顔を上げる。

 珍しく助手席の窓が開いていて、京が自分を見ていた。

「おはようございます、京さん」

 貴重な睡眠時間を、木綿のためにさいていいの?

 心の中で、呟く。

 木綿――いい得て妙だ。

 京が、最初に言った言葉。

 木綿を、絹と見間違っている人たち。

「ああ…」

 京の返事を聞きながら、絹は車に乗り込んだのだった。
< 30 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop