ワケあり!
 すぐには動き出さず、絹はふっと足元を見た。

 正確には、この床のもっともっと下。

 絹がほとんど出入りしない、地下の研究室だ。

 そこに、もう1匹モグラがいる。

 絹とはまた、違う闇を持っている存在。

 いつか。

 いつか彼も、そこから出られる日が来るだろうか。

 いま抱えている記憶も、腕の古傷も、黒い服も。

 全部、日の下にさらせる時がくるだろうか。

「島村さんも…来ませんかね」

 ダメモトで口にしてみる。

「…どこで、自分の過去が明るみに出るか分からんからな」

 前に、ボスが広井家に発明品を抱えていった時、島村はついて行かなかった。

 二つの過去を、探られるのを恐れたのか。

 実際。

 蒲生は、それを調べた。

 ただ、彼には科学的想像力はなかったので、不思議な過去から事実を構築出来なかったのだ。

「綺麗に…消せませんか? 過去」

 それが邪魔だと言うのなら、いっそ消してしまおう。

 絹の過去は、渡部が勝手に消したようだ。

 不可能ではないのなら。

「私の管轄外だな…本家…ゴホン…渡部家なら、出来るだろうが」

 ボスが頼む、というのには抵抗のある声。
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