ワケあり!
Ver.了1


「勝利の女神ーっ!」

 すごい単語を叫びながら、絹は飛び付かれた。

 その勢いと重さに、よろめいてしまう。

 強い男を目指してきた彼は、たったいま高校生の頂点に立った。

 そんな身体で、昔と同じノリで飛び付かれると、絹も支えきれなくて当たり前だ。

「すごかった? 強かった? かっこよかった?」

 汗びっしょりのまま、全身で褒めてとアピールが押し寄せる。

「うんうん、すごかったし強かったしかっこよかったよ」

 タオルで汗を拭いてやりながら、絹は笑った。

 昔、宣言した通り、中身は可愛いままだ。

「やったーわーい!」

 無邪気に、思い切り抱きしめられる──人目があるにも関わらず、だ。

「ちょ…ストップ。周りを見て」

 絹は、慌てて彼を制止した。

 このまま、キスまでされそうな勢いだったのだ。

「えー…」

 しかし、まったくもって周囲の空気を感知せず、彼は頬をふくらませる。

「じゃあ、誰もいないとこいこ!」

 その目が。

 一瞬できらっと光る色をたたえ、絹の腕を引っ張って会場を後にする。

 あ、あからさますぎる。

 引っ張られながらも、絹は爆笑したい気持ちを抑えるので大変だった。

 本当に、自分の生きたいように生き、やりたいようにやる男になったものだ。

 強引でワガママで、それでいて、どうしても憎めない。
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