ワケあり!
Ver.了2


「これで大会も終わったから、絹さんとどこへでも行けるよ…待たせてごめんね」

 会場裏手に、てきぱきと絹を連れ込む手際とは裏腹に、本当に嬉しそうに言葉を吐く。

「海がいい? 山がいい? 星を見に行く?」

 にこにこしながらも。

 更にてきぱきと、絹を抱きしめる。

 ギャップが、おかしくてたまらない。

「進路はいいの?」

 学年的には、ダブりの絹よりひとつ下になる彼は、いま高校三年生。

 夏の大会が終わったら、次は進学が待っているだろうに。

「うん、大丈夫…僕、進学せずにアキさんとこいくから」

 笑顔で──とんでもないことを言い出した。

「アキさんとこって…」

 具体的な想像がつかずに、絹は眉をひそめる。

「いまね、武道家を指導員として、世界に派遣してるんだよ、アキさんとこ」

 そういえば。

 昔に起きた、あの事件の後。

 絹の後輩たちの半分近くは、アキの里に引き取られたと聞いた。

 社会にすぐに復帰できない子らを、彼女が面倒を見ていたのだ。

 武道の才能のある子は、その方向で育てているとも聞いた。

 そうか。

 あの子たちも、ちゃんと社会へ戻っていっているのか。

「ぶー…絹さん、いま遠い目をした…僕、それ嫌い」

 遠い思い出に引っ張られかけた絹は、一瞬にして彼に足を掴まれ、引きずりおろされた。

 暑いのに、ぎゅうぎゅうに抱きしめられる。

 日陰なのが、唯一の救いか。
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