ワケあり!
Ver.了3


「僕をちゃんと見てよ! かっこいい僕を!」

 本人が至ってまじめに言えば言うほど、どうしてこうおかしくなるのだろう。

 確かに、彼を見ていると、遠い目をする暇もなさそうだ。

「見てるわよ」

 くすくす笑いながら、絹は答えた。

「ほんと?」

 疑いのまなざしが、真正面。

 見ていると言った手前、この近距離でも目はそらせない。

「ほんとほん…」

 笑いながら、肯定しようとしたのに。

 我慢のきかない可愛い坊やは──ちうちうと、ねずみのようなキスを始めている。

 口紅、塗ってるのに。

 自分の口紅が、はげる心配をしているのではない。

 彼が口紅をつけたまま──表彰台に上がってしまう方を心配したのだ。


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