ワケあり!
Ver.京1


「おい…絹!」

 呼び掛けに、絹はつーんとあらぬ方を向いた。

 三ヶ月、音沙汰ナシで世界中を飛び回っていた唐変朴には、これくらいでちょうどいいのだ。

 社長代理で、死ぬほど忙しい思いをしたのは、百も承知。

「地球が冷えるより早く、私に氷河期がくるわよ」

 しかし、多少のグレくらい許されるはずだ。

 温Pの仕事に、本格的にハマった彼は、例の装置のエキスパートになった。

 そのため、技術指導などで、世界中から引っ張りだこなのだ。

「分かった分かった、悪かった」

 ずさんな謝りがきたので、文句を言おうと振り返ったら。

 驚いた。

「なんで、怪我してるの?」

 吊られた左腕。

「自然環境に、科学が入ってくるのを、嫌がる奴らがいるってこった」

 たいしたこたねぇよ。

 暴力的な脅しにも、まったくブレのない男だ。

 おもしろくないのは、絹だ。

 どこの誰だか知らない奴に、ボスの発明品とそのエキスパートが傷つけられたのだから。

「今度から、私も連れてって」

 そんじょそこらの素人よりは、よほど役に立つ。

 少なくとも、みすみす怪我させたりはしない。

「おまえなぁ」

 なのに、彼は物凄い嫌な顔をした。

「オレが、うんと言うと思ってるか?」

 ずいっと、顔が近づいてくる。

 両目に、拒否の色がありありと浮かんでいた。
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