ワケあり!
Ver.将1


「絹さん、足元気を付けて」

 手を引かれながら、雪原を歩く。

 冬の北海道。

 息も白くならない澄んだ空気の中、手を引かれて雪を踏む。

 少しだけ眉間が痛いのは、皮膚のしたの古傷のせいか。

 開けたところに出ると、彼は担いできた大荷物を下ろし、シートや毛布を敷き始める。

『何にもないとこに、行かない?』

 絹が高3の冬、そう誘われた。

 留年した絹と違って、既に彼は大学生だ。

 金持ちのボンボンなのだから、スキーとかに誘うのが王道だろうに。

 曖昧で奇妙な誘いに、絹は笑いながら乗った。

 そして、北海道に来てしまったのだ。

 本当に、何もないところだった。

 町は遠いし、携帯は入らないし、二人きりだし。

 夜になって、極寒の外に連れ出される。

 大体、想像がついたので、絹は下ばかりを向いて歩いていた。

 自分だって、とても楽しみだったのだ。

 だから、ぎりぎりまで取っておきたかった。

「いいよ、こっちにおいで」

 先に座った彼が、肩にかけた毛布を広げながら待っている。

 照れるようなことも、彼は容赦なくやってしまうのだ。

 苦笑いしながらも、絹はその毛布に入った。

「見ていい?」

 絹は、うずうずとどきどきの間を行ったり来たりしていて。

 早く、どちらかを抑えたかった。

「じゃあ、一緒に見よう…オレも我慢してるんだ」

 くすくす笑われて、絹は恥ずかしくなる。

「じゃあ、せーの、でね」

 上ずりそうになる声で、合図を決めた。
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