ワケあり!
Ver.将2


「せーの!」

 見上げた――空。

 雪雲のない、快晴の冬の空。

「……」

 声なんか出ない。

 そこには。

 原始の空があった。

 この空に、近いものを前に見た。

 街が真っ暗になった夜。

 しかし、それよりももっとすごい夜空。

 ここの空気が、冴え渡っているせいだ。

 あれを超える空には、もう出会えないと思っていたのに。

「いつか、さ…」

 見上げたまま、彼は呟いた。

「いつか、一緒に宇宙に行こうよ」

 大学生になった男が、本気でそれを言っている。

 行けたらいいね、ではなく、行こうと。

 工学科に進んだ彼の、それはきっと目標になったのだろう。

 夢、なんてふわふわしたものではなく。

「そうね…宇宙では、また違う星空が見えそうね」

 それはもう原始ではなく、未来的な星空になるだろう。

 星を見上げている男は、きっと星へ征く者になるのだ。
< 334 / 337 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop